新型コロナウイルスの対応について語る林氏=富山市のANAクラウンプラザホテル富山

地域医療構想、見直しを 林富大附属病院長 富山新聞政経文化懇話会

2020/09/12 01:57

 富山新聞政経文化懇話会の9月例会は11日、富山市のANAクラウンプラザホテル富山で開かれ、富大副学長・附属病院長の林篤志氏が「新型コロナウイルス最後の砦―富大附属病院の取り組みと今後の展望―」と題して講演した。林氏は同院で新型コロナ患者を受け入れた経験を基に、病床削減を求める従来の地域医療構想では突発的な感染症に対応できないとし、「余剰の病床を残しつつ、病院ごとに役割を分担することが必要だ」と強調した。要旨は次の通り。

 

 3月30日、富山県で新型コロナ感染者の1例目が報告され、急激に患者が増加した。富大附属病院も患者を受け入れ、5月28日に第2種感染症指定医療機関の指定を受けた。富山市民病院でクラスター(感染者集団)が出て、県内の医療体制を強化する必要があった。

 

 新型コロナは、2002年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や12年の中東呼吸器症候群(MERS)と同じ種類のウイルスだ。インフルエンザに比べて潜伏期間が14日と長く、発症前から感染させるなど感染力が強い上、致死率も高いのでやっかいである。疲労感が取れない、呼吸しづらくなるなどの後遺症もあり、社会復帰が難しいという問題も出ている。

 

 未経験でノウハウのない感染症への対応は大変だった。富大附属病院では院内感染防止のため、医師や看護師、職員が協力して発熱外来を実施した。不足するマスクは、職員自ら作った。

 

 陽性患者の治療は、救急部の集中治療室すべての病床を重症患者用に転用し、一般病棟の一部をコロナ患者専用病棟に変更した。専用病棟で働く医師や看護師は防護服を着る必要があるが、第1波当時は頻繁に着替えられるほど予備がなく、一度着ると7~11時間は脱ぐことができなかった。その間はトイレに行けず、水分補給もできないという過酷な状況が続いた。

 

 団塊世代が75歳以上になる25年を区切りとした地域医療構想が進められている。余剰な病床を減らし、無駄を省いて医療費も下げようという方針だが、新型コロナを経験して、従来の考え方では、感染症のような突発的な状況に対応できないと分かった。

 

 富大附属病院では2割の病床が空いており、今回はこの余剰病床のおかげで柔軟に患者に対応できた。SARS、MERS、新型コロナと、ほぼ10年ごとに新規の感染症が発生しており、今後も起こり得ると考えると、構想を根本的に変える必要がある。医師の働き方改革が求められる中、病院同士の連携と役割分担もさらに進めていかなければならない。

 

 医療機関へのコロナの影響は大きい。4月以降、全国医療機関の3分の2が赤字となり、全国の大学病院だけで今年度5千億円の赤字が見込まれている。医療機関が経営難に陥れば、医療崩壊の原因になり得る。

 

 富大附属病院はこの4年半で大きく変わった。経営状況の可視化や職員の意識改革、支出削減など経営改善に取り組み、15年度に3億4900万円の赤字だった収支は、翌年度に黒字に転じ、19年度は5億4千万円の利益を出した。

 

 07年に眼科教授として着任し、診療実績をしっかり出すこと、県内の眼科医師と信頼関係を築くことを基盤としてきた。これが発展のキーだった。同じことを全診療科で行い、質の高い医療の提供につながった。

 

 若く優秀な教授もそろった。日本で唯一の膵臓(すいぞう)・胆道センターをはじめ、今後も組織や施設の充実を図り、ゲノム診療や未病の研究、ロボット治療など最先端医療を進めて、地域医療の最後の砦として、県民の皆さんからさらなる信頼を得る体制を整えたい。