きょうのコラム『時鐘』

2019/09/18 01:11

 甲子園(こうしえん)を沸(わ)かせた球(きゅう)児(じ)の登場(とうじょう)に「黄色(きいろ)い声(こえ)」が飛(と)んだ、という記(き)事(じ)があった。若(わか)い女(じょ)性(せい)の歓声(かんせい)を「黄色」と言(い)い表(あらわ)す面白(おもしろ)い表現(ひょうげん)が、いまも健在(けんざい)なのに、ちょっと感心(かんしん)した

声に色があるわけはない。語源(ごげん)を調(しら)べると、「諸(しょ)説(せつ)あり」。根拠(こんきょ)は分(わ)からないが、色を付(つ)けたい気分(きぶん)は分かる。肝(きも)っ玉(たま)が縮(ちぢ)むような叱責(しっせき)は「どす黒(ぐろ)い怒号(どごう)」、泣(な)きやまない幼児(ようじ)の声(こえ)は「火(ひ)の付いたような赤(あか)」か

風(かぜ)にも、さまざまな色を感(かん)じるときがある。浮(う)き立(た)つ春(はる)に出(で)合(あ)う微風(びふう)は「みどり」、頬(ほお)を殴(なぐ)る猛烈(もうれつ)な吹(ふ)雪(ぶき)は、鋼(はがね)のような「白(しろ)」。房総半島(ぼうそうはんとう)を荒(あ)れ狂(くる)った突風(とっぷう)は底知(そこし)れぬ闇(やみ)から吹(ふ)く「黒(くろ)い恐怖(きょうふ)」だろう

うれしい声(こえ)や風(かぜ)なら温(あたた)かい色、辛(つら)く厳(きび)しいものなら冷(つめ)たい色。心(こころ)に浮(う)かぶさまざまな思(おも)いが色を生(う)む。深(ふか)まる秋(あき)は、色づく季(き)節(せつ)でもある。田(た)や畑(はたけ)は実(みの)りの色に変(か)わり、庭(にわ)の千草(ちぐさ)も目(め)を楽(たの)しませる。穏(おだ)やかな色に囲(かこ)まれた暮(く)らしが続(つづ)くはずである

黒いつむじ風が襲(おそ)った被災地(ひさいち)の爪(つめ)跡(あと)が連日(れんじつ)、報(ほう)じられる。家(いえ)や道路(どうろ)を覆(おお)うブルーシートが嫌(いや)でも目に入(はい)る。とげとげしく突(つ)き刺(さ)さる青(あお)。災(さい)害(がい)列島(れっとう)が生む悲(かな)しい色(いろ)の増殖(ぞうしょく)に胸(むね)がふさがる。