北國新聞社より | 北國新聞社

きょうのコラム『時鐘』

2018/08/16 01:06

 1枚(まい)の写真(しゃしん)が見事(みごと)に時代(じだい)を切(き)りとることがある。2005(平成(へいせい)17)年(ねん)にサイパンを訪(おとず)れた天皇(てんのう)、皇后(こうごう)両陛下(りょうへいか)の後(うし)ろ姿(すがた)がそれだった

多数(たすう)の日本人(にほんじん)が身(み)を投(な)げた崖(がけ)の上(うえ)で両陛下は海(うみ)に向(む)かって黙礼(もくれい)した。真心(まごころ)は背中(せなか)に表(あらわ)れることを知(し)った。黙祷(もくとう)をこれほど厳粛(げんしゅく)に写(うつ)し撮(と)った映像(えいぞう)はない。以後(いご)、国民(こくみん)にも慰霊(いれい)の旅(たび)への共感(きょうかん)が深(ふか)まったと思(おも)う

きのうの戦没者追悼式(せんぼつしゃついとうしき)で両陛下の姿(すがた)を目(め)に焼(や)き付(つ)けた人(ひと)もいただろう。無事(ぶじ)に務(つと)めを果(は)たされた。退位(たいい)が決(き)まってよかったとつくづく思った。皇室(こうしつ)を必要以上(ひつよういじょう)に持(も)ち上(あ)げるつもりはない。忘(わす)れてはならない四(よっ)つの日(ひ)に同感(どうかん)するからだ

沖縄戦終結(おきなわせんしゅうけつ)。広島(ひろしま)と長崎(ながさき)の原爆忌(げんばくき)。そして終戦(しゅうせん)の日。むろん北陸(ほくりく)では富山や福井(ふくい)の空襲(くうしゅう)も加(くわ)わる。地域(ちいき)には地域の忘れてはならない「命(いのち)」があることを慰霊の旅は示(しめ)している

戦没者の数(かず)とは比較(ひかく)にならないが、追悼式の始(はじ)まる朝(あさ)に、山口県(やまぐちけん)で不明(ふめい)になっていた2歳児(さいじ)の無事発見(ぶじはっけん)が話題(わだい)になった。一(ひと)つの幼(おさな)い命にこれだけ多(おお)くの人々(ひとびと)が心配(しんぱい)できる世(よ)の中(なか)。これも時代を切りとる1枚の記録(きろく)写真だ。大切(たいせつ)にしたい。この日常(にちじょう)を。