聖地を巡礼するファンの姿が見られたトキワ荘ミュージアム=東京・豊島区

トキワ荘ミュージアム整備に尽力したトキワ荘商店街の小出会長

藤子Ⓐさんが通った「中華料理 松葉」のラーメン

 漫画界の巨匠、藤子不二雄Ⓐさんが若き日々を過ごしたアパート「トキワ荘」(東京・豊島区)のあった「聖地」には8日、どこか物寂しい空気が漂っていた。「トキワ荘の街」に残る偉大な先輩の足跡をたどってみた。(東京支社・森角太地)

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 1年前、藤子Ⓐさんと初めて会った「トキワ荘マンガミュージアム」にまずは向かった。伝説の「トキワ荘」は1982(昭和57)年に解体され、2020年に近くで再現されたのが同ミュージアムだ。

  ●「ニュース見て来た」

 昼前に着くと、藤子Ⓐさんをしのび、聖地を巡礼するファンの姿があった。愛媛県今治市から夫婦で東京を訪れていた阿部郁子さん(68)は「親子で先生の作品が好きで、ニュースを見て来た。寂しいですね」と話し、館内に入った。

 「『よくできているね』って声を掛けてもらったのがうれしくて」。ミュージアムを運営する豊島区の熊谷崇之担当課長は藤子Ⓐさんと会った日を振り返り、近い将来、企画展を開くことが悲願と打ち明けた。

 昨年4月、新企画展の会見にゲストで登場した藤子Ⓐさんを取材したことを思い出した。会見後「富山新聞です。先生の後輩になります」と申し出ると、藤子Ⓐさんは「おお、そうですか。コロナが終わったら富山に行きたいですね」と優しく答えてくれた。長引く新型コロナウイルスの影響で、実現できなかったことが残念でならない。

  ●商店街で企画展を

 ミュージアムに隣接するブックカフェ「ふるいちトキワ荘通り店」では、トキワ荘商店街会長の小出幹雄さん(63)に聞いた。店内にはトキワ荘の住人たちの作品が並ぶ。ミュージアム整備にも尽力した小出さんは「先生の企画展を生前に開きたかった。作品は永遠に残る。まんが道は永久です」と惜しんだ。

 昭和の情緒漂う商店街を数分歩くと、行列に出くわした。かつて藤子Ⓐさんが足しげく通った「中華料理 松葉」である。店内がすいてきた頃合いでカウンター席に座り、巨匠が愛したラーメンを注文。麺をすすると、懐かしく優しい味がした。自伝的作品「まんが道」の作中で、藤子Ⓐさんをモデルにした満賀道雄が「ンマーイ!」とうなったのも納得できた。

 3代目店主の山本麗華さん(58)は、「ラーメン大好き小池さん」のモデルでアニメーターの鈴木伸一さんとよく訪れていたと教えてくれた。「とても優しい人。有名になってからも来てくれた。感謝の一言です」と寂しそうに語った。それでも自らに言い聞かせるように、「(休日の)あしたはもっとたくさん人が来そう。頑張らないと」と笑みを浮かべた。巨匠亡き後も数々の作品は生き続け、ファンに、街に元気を与え続けてくれるに違いない。

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