白血病で長期療養していた競泳女子の池江璃花子(20)=ルネサンス=が10日まで五輪会場の東京アクアティクスセンターで開かれていた日本選手権で、出場4種目全てを制し、病気が判明する前の2018年以来となる大会4冠を達成した。

 白血病を公表したのは19年2月のこと。それから約2年2カ月で臨んだ今大会。4日に100メートルバタフライ、8日に100メートル自由形で優勝、400メートルメドレーリレーと400メートルリレーの選考基準を満たし、東京五輪代表に決まった。ただ、非五輪種目の50メートルバタフライを除く池江が勝った3種目は個人で選考基準をクリアした選手がいないため、五輪本番で池江が出場する可能性も十分ある。

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 当時18歳の池江は、100メートルバタフライで世界の頂点を照準に定めていた。16歳で出場した16年リオデジャネイロ五輪で5位と健闘。だが、17年の世界選手権では6位にとどまった。悔しさを味わい、飛躍を誓って高地合宿といった厳しいトレーニングを積んだ。そして18年8月、北米とオーストラリアの強豪が集ったパンパシフィック選手権で56秒08の日本新記録を打ち立て、主要国際大会で初めて金メダルを獲得した。 

 リオ五輪銀メダルに相当し、18年世界ランキング1位の価値あるタイムに「55秒台はもうすぐ出る。五輪のメダルも確実に取りたいと思えるようになった」と宣言した。直後のジャカルタ・アジア大会では6冠を獲得。日本選手の1大会最多金メダル獲得記録を塗り替え、大会最優秀選手(MVP)にも輝いた。

 ところが、19年2月、合宿中のオーストラリアで体調を崩し、急きょ帰国。検査の結果、白血病が判明する。治療に専念し、正常な血液をつくる造血幹細胞を移植。症状やがん細胞の検出がなくなる寛解状態を維持したことから12月に退院した。入院生活は約10カ月に及んだ。ただ「パリ五輪出場、メダル獲得という目標で頑張っていきたい」と表明、東京五輪は視野に入っていなかった。

 退院後、初めてプールに入ったのは20年3月17日。コロナ禍で東京五輪の1年延期が決まったのは、その直後だった。7月23日、本来なら開会式が行われるはずだった夜、白いコスチューム姿の池江は国立競技場のピッチに立った。聖火がともるランタンを携え「逆境からはい上がっていく時には、どうしても希望の力が必要。1年後の今日、この場所で希望の炎が輝いていてほしい」と世界に向けて語りかけた。

 8月下旬、待ち望んでいた復帰戦に臨んだ。1年7カ月ぶりのレースは50メートル自由形。タイムは26秒32で目標を上回った。「第二の自分の水泳人生の始まりかなと思う」。21年2月には東京都オープンの50メートルバタフライを25秒77で制し、リスタート後、初めて優勝した。19年世界選手権の8位に相当する好タイム。レースの後、東京五輪代表選考会を兼ねる4月の日本選手権に出場する意向も表明した。

 池江本人が「想像もしてなかった」という回復ぶり。日本選手権を前に、東京五輪への期待が高まる中「ここまで戻ってきて結果を出し始めていることをよく見てほしい」と慎重だった。日本選手権最初の種目は100メートルバタフライ。闘病前は最も得意にしていたが、パワーと泳ぎの技術が求められる難しい種目で、ハードルは高いとみられていた。準決勝は全体の3位で通過。それでも―

 決勝レースのプールには「ただいま」と小さくつぶやいて入場した。「何番でも、ここにいることが幸せと感じて泳ごう」。前半を小差の2位で折り返し、大きくしなやかなフォームで逆転した。ただ一人57秒台をマーク。ガッツポーズを作った後は、感情がこみ上げ肩が震えた。インタビューでも涙が止まらない。

 「自分が勝てるのはずっと先のことだと思っていた。今すごく幸せ。すごくつらくて、しんどくても努力は必ず報われると思った」。圧巻のレースと心から素直に紡いだ言葉が、多くの人の胸を打った。国内だけでなく、海外からも驚きと賞賛の声が集まった。

 1レースごとに顔つきや雰囲気が「女王」に変わっていった。100メートル自由形は池江が離脱している間、日本勢が誰も出せなかった53秒台を軽々とマークした。疲労が心配されていた大会最後の50メートル自由形は、息継ぎをしない「ノーブレス」で泳ぎ切り、後半の競り合いを抜け出した。

 「(出場選手で)一番、自分がプレッシャーを感じていないと思う。それがすごく良かったと思う」と振り返りながらも「試合に出て100メートル種目を2冠した後は50メートル種目も負けたくない気持ちが湧いた」とチャレンジャーから再びエースの立場に目覚めた胸中も明かした。闘病中に一時は15キロ以上も体重が落ちたという体や筋力はまだ回復途上。「タイムを挙げていくための課題も見つかった。自分の中で楽しみにして練習を積んでいきたい」と夏の五輪本番に向かう。

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