松山ケンイチ(36)と東出昌大(33)。将棋をテーマにした映画『聖の青春』では“天才”“怪童”と呼ばれたライバルとして対峙したが、ボクシングをテーマにした映画『BLUE/ブルー』では、先輩後輩ボクサーとして向き合った。将棋、ボクシングと“勝ち負け”がはっきり決まる勝負の世界で生きた人物を演じた松山と東出にとって、俳優の世界での“勝ち負け”、さらに“報われた”と感じる瞬間はあるのだろうか――話を聞いた。

【場面写真】ボクサーの先輩・後輩を演じた松山ケンイチ&東出昌大

 『聖の青春』以来の本格共演となった松山と東出。『聖の青春』では、松山は怪童と呼ばれ、将棋の才能に恵まれつつも、早逝してしまった村山聖に、東出は天才・羽生善治に扮した。

 松山は「『聖の青春』のときは、村山さんも羽生さんもシャイな性格のため、盤面では饒(じょう)舌でも、実際二人が会話するシーンはほとんどなかった。東出くんがどういう人間なのか分からなかった」と当時を振り返るが、一方で「シーンを共にすると、その人たち同士でしか分からないものを共有できることもある。東出くんとはそれがあったので、今回も信頼感がありました」と2度目の共演でのアドバンテージがあったと明かす。

 本作で、松山はボクシングを心から愛しているものの、どれだけ努力を重ねても試合に勝つことができないボクサー・瓜田を、東出は瓜田に誘われてボクシングを始めた才能あふれるボクサー・小川に扮する。勝ち負けがすべてのボクシングにおいて、先輩後輩の立場が逆転する関係性は、ある意味で非常に残酷だ。

 そんな瓜田という役について松山は「嫉妬や妬み、憧れなど、いろいろな感情をしっかり持っていて、それを小川や楢崎(柄本時生)にしっかり渡せる。僕が見ても憧れるようなデカイ男なんです」と懐の深さをしっかり表現することを心掛けたというと、東出は「僕が演じた小川は才能とセンスあふれるボクサーという一面を持ちつつ、パンチドランカーになってしまうという影も持ち合わせている。ドランカーになってしまうと、どんどんボクシングにしがみついていってしまう人もいて、そういった性格の変化も緻密に演じられたらと思っていました」と役作りについて語る。

 東出のドランカーという言葉に、松山は「怖いよね。俳優にもドランカーみたいなものはありそうだよね」とつぶやく。

 言葉の真意を問うと、松山は「役に入りこんでいこうと思えばどこまででもいけてしまうような気がするんです。でも僕は臆病で怖がりなので、戻れなくなったら嫌だなと思って、毎回自分で制限してしまい、『目標までいけなかったな』とモヤっとした気持ちになってしまうんです」と苦笑い。

 松山と言えば、前述した『聖の青春』で村山聖を演じた際も、20キロ以上の増量をするなど役に向き合う姿勢は壮絶なイメージがあったため、この言葉は意外に感じられるが「俳優ってどこかで自分を殺している部分があるので、深く向き合いすぎると、自分自身を破綻させしまうと思うんです。正直そんな場所にはいきたくないし、そんなことを誰も求めていない。でもギリギリの淵までいきたいという思いもある。だから怖いなって感じるんですよね」と胸の内を明かす。

 松山の発言に東出は「後輩の僕から見ると、多くの役者さんのなかで、一番淵まで入りこんでいるのが松山さんだと思って見ていました。ただ、その先に何かがあるとして、もしかしたらそれは悲劇なのかもしれませんし、戻ってこられないかも…と想像すると怖いですよね」と悩ましい顔を浮かべていた。

 メガホンをとった吉田恵輔監督は、本作について「流した涙や汗、すべての報われなかった努力に花束を渡したい気持ちで作った」と語っていたが、ボクシングとは違い、明確な白黒がない俳優業において「報われる、報われない」という基準にあるものはなんなのだろうか――。

 松山は「正直言って、報われたとか、報われなかったって考えたら、さまざまな感情が出てくると思うんです」と切り出すと「僕もいろいろな役をやらせてもらって、挫折したり失敗したりすることなんて数限りないですからね。でも一生懸命やった失敗に対して“報われなかった”って考えたらなんにも面白くない。僕はそのときどきで結果を考えるのではなく、トータルで見た方がいいと思っているので、いまこうして俳優業を続けていられて、ご飯も食べているので、それだけで十分だなって考えています」と持論を展開。

 東出も松山の意見に大きくうなずくと「僕も、勝ち負けがどうかとかというベクトルではなく、こうして生きて俳優という仕事に向き合えていることがありがたい。コロナ禍もあって、業界にもいろいろあったなか、映画を見てくださった方から、時間を割いて『あなたの作品を見て救われました』と手紙を書いていただいたりすると、やっていて良かったなと思いますが、それで自分が『報われた』と思うというよりは、この仕事ができて幸せだなという感覚です」と語った。

 俳優として作品に参加できる喜びこそがすべてであるという松山と東出。だからこそ、役にのめり込んでしまいすぎる怖さも分かっているのかもしれない。“超えてはいけない一線”のギリギリまで攻めた二人の芝居を堪能したい。(取材・文・撮影:磯部正和)

■映画『BLUE/ブルー』
4月9日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
(C)2021『BLUE/ブルー』製作委員会

映画『BLUE/ブルー』で『聖の青春』以来の本格共演を果たした(左から)東出昌大、松山ケンイチ (C)ORICON NewS inc.

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