金沢市大桑町の市道で9月13日、登校中の女児が車にはねられ重体となった事故から2週間余り。市が緊急点検、石川県警と金沢中署が実況見分を行うなどそれぞれ原因究明を急ぐが、かねて地元から上がっていた「危険だ」との声は見過ごされていた。市教委は「危険との認識はなかった」とするが、過去3度の通学路点検で対象から外れていたのはなぜか。市は事故後、注意喚起の看板を設置したが、それで対策は十分なのか。現場を見て検証した。
(社会部・室屋祐太、巻山彬夫)
「自宅側の道路脇は狭くて危ないので、(娘には)道路を渡らせていた」。事故から約2週間後の9月26日、金沢市などが行った「緊急点検」で、事故に遭った南小立野小4年の女児(10)の父(33)が、ふだんの登下校の様子を説明した。
事故は9月13日午前7時20分ごろ起きた。自宅を出て学校に向かうため市道を横断していた女児が、右から来た乗用車にはねられ、意識不明の重体となった。
市道は片側1車線。横断歩道は約150メートル先にあるが、自宅がある側は狭い路側帯しかない。
学校側は、路側帯を歩いて横断歩道まで行った上で歩道側に渡るルートを「通学路と想定していた」とする。だが、女児の父は、路側帯を歩いて横断歩道まで移動するのは危険だと考え、自宅前で反対側に渡り、歩道を歩くように伝えていたという。
実際、周辺住民も「車が途切れるのを待って、横断歩道がない場所を、恐る恐る渡っている複数の子どもをよく見る」と話す。
その路側帯、幅は約1メートルとされるが、側溝部分を含めてであり、それを除けば30~40センチしかない。しかも、反対の歩道は車道と段差があるが、路側帯は車道との間に白線があるだけで、歩いている横を、車がびゅんびゅん通っていく。路側帯を歩くのが危険か危険でないかは、現場に行けば一目瞭然だ。
●過去3回は対象外
市教委は、各小学校で5年に1回、通学路の危険な箇所を洗い出し、警察や道路管理者と合同点検している。南小立野小校下では2015、20年度に実施した。さらに、昨年6月に千葉県八街(やちまた)市で下校中の児童5人が死傷した事故を受け、21年度にも合同点検をしたが、いずれも現場付近は対象から外れていた。
なぜ住民は危険を感じていたのに、点検から漏れたのか。市教委教育総務課の堀場喜一郎課長は「点検する危険箇所は、学校が育友会や地元の意見を集約してリストアップしてくる。今回、事故が起きた道路は一度もリストに上がらなかった」と説明する。
しかし、地元は複数回、その危険性を市や警察に伝えていた。
地元の大道割(だいどうわり)町会は2019年6月、現場近くに横断歩道を設置してほしいと金沢中署に要望した。しかし、既存の横断歩道との距離が近く設置基準を満たさないなどの理由から見送られた。町会は翌年にも繰り返し要望したが、受け入れられなかった。
市にも19年7月に地域住民から、横断歩道付近の事故防止対策の要望が寄せられた。この際、市道路管理課は、横断歩道手前の路面に減速を促すマークを記し、バス停の利用者が安全に待機できるよう近くの側溝にふたを付ける対応をした。
事故が起きた現場は、郊外の下り坂でスピードが出やすく、通勤・通学の利用者が多く、バスやトラックも頻繁に行き交う。近くの金沢学院大も16年11月、今回の事故現場を含む市道犀川大通り線の涌波1丁目南交差点―永安町交差点間を拡幅するよう市に対し要望していた。
●危険の認識なし
結果的に、こうした地元関係者の度重なる訴えは、市教委や学校側には届いていなかった。
南小立野小の清水彰子校長は「確かに道幅が狭く、交通量が多い。ただ、150メートルほど路側帯を歩けば横断歩道があり、歩道に行けるので、危険箇所との認識がなかった」と弁明する。
なぜ学校側に伝えなかったのか。市道路管理課の木谷哲課長は「道路に関する要望はかなり多く、全てを学校と共有するのは難しい」と話す。金沢中署の宮務交通官は「町会からの要望と、通学路の点検とが結び付いていなかった」と述べた。
育友会の山田雅博会長は「事故があって初めて要望を知った。把握が不足していた」と反省を口にし、「今後は保護者も見守り活動を積極的に行っていきたい」と語った。
「これまで誰がどこに要望をしたのか、それが相手方に届いたのか、どう対処したのかという話が共有されていなかった」と悔やむのは地元の崎浦地区町会連合会の上森弘会長で、今後は町会連合会が窓口となり、情報を一元化できるようにしたい考えだ。
●父親「見れば分かるのに」
女児の父は、北國新聞社の取材に対し、現場が通学路の点検対象に含まれていなかったことについて「なぜ入っていないのか。危ないことは見れば分かるのに…」と首をひねった。
その上で「近くに同級生たちも住んでいる。他の人も事故に遭わないように、市の取り組み方が少しでも変わってほしい」と述べ、安全対策の強化を求めた。