社長・萬谷浩幸氏

会長・萬谷正幸氏

 最近、家族でキャンプに行くようになった。最初は全てレンタルだったが、今では車の中がキャンプ道具でいっぱいだという。至れり尽くせりの旅館とは正反対の趣味に驚くと「不便を楽しむのが面白いんです。引き算のサービスもあるんだなって勉強になりました」と楽しげに教えてくれた。

 運営する旅館のコンセプトに掲げているのは「温泉エンターテインメント」。「型があるのは良いことだけど、それだと自由度が低くなってしまう。型破りでも、ダメなら戻せばいい。挑戦しない理由はないですよね」。これまでにもアイドルグループ「モーニング娘。」の加賀楓さんのトークショーや映画上映会を企画しており、温泉旅館に新風を吹き込もうとする気持ちは人一倍強い。

  ●「身近な空間」

 昨年、開業30年を迎えた瑠璃光の旅館イメージを社員に尋ねたところ、従来の「特別な場所」「豪華」との答えが目立った半面、若い社員からは「身近な空間」との声も上がった。若い客の求める「旅館像」が、非日常の場所から日常の延長にある空間に変わってきたと感じ、開業30周年の改装で畳敷きの客室にベッドやソファを入れた和洋室を増やしてみた。

 「ウィズコロナ時代は家族や友人らで、じんわりと楽しめるエンタメを目指します」。苦境にあっても、何とか工夫をして乗り切ろうとしている。

 コロナ禍の2年間は、やむを得ず休館する時期もあれば、行政の観光喚起策で宿泊客が急増するなどアップダウンが激しかった。その荒波を乗り越えるため、外注だった客室清掃を社内で対応するなど改革を進めた。

 「旅館はこうあるべきという社員の固定観念が良い意味でなくなった」。コロナ前はやり方を変えようとすると社員から苦情もあったが、最近は柔軟に対応するようになったそうだ。

  ●社員の声聞いて

 新たな取り組みを積極的に進める姿勢に、8年前に社長職を譲った父の正幸会長は「新しい考え方で、本当に経営がガラッと変わった」と評価する。その一方で「自分の考えを出すだけでなく、社員の声を聞き、うまく取りまとめてほしい」と注文を付けることも忘れなかった。

 世界を見渡すと、観光業の先行きにそこまで不安は感じていない。コロナを機に県外客が減り、ターゲットを地元客にシフトしてきたが、「ここに従来の主要層だった団体客や外国人が戻れば、むしろ以前よりも売り上げは伸びるはずだ」と力強く言い切った。

 石川県内全域に適用されていたコロナのまん延防止等重点措置も解除された。「コロナ禍でも新卒やアルバイトを採用して人材は育ててきた。その先行投資がこれから返ってきますよ」。2年後に北陸新幹線の県内全線開業を控え、コロナワクチンの3回目接種開始など、明るい話題は多い。「コロナが収束したら、また昔のエンターテインメントを復活させたい」。再び型破りな発想で加賀の温泉街を盛り上げる日を心待ちにしている。

 ■〈記者の目〉

 「実はDJができるんです」。趣味を尋ねたら、意外な答えが返ってきた。曲の構成を考える点が、イベントのスケジュールを組むのに役立つと知人に勧められたという。

 普段は自宅に機材を置いており、旅館や温泉街の音楽イベントがある際に持ち出している。最近はコロナで披露する機会がないと残念がっていた。

 「DJはサービス精神の養成にもつながる。自己満足ではいけない、とかね」。趣味を楽しむ時も欠かさない、おもてなしの心構えがアイデアの源なのだろう。(経済部・谷内俊介)

●社長 萬谷 浩幸氏

 よろづや・ひろゆき 加賀市出身。早大政治経済学部卒後、よろづや観光に入社。専務を務め、2014年から現職。46歳。

(●は代表権)

常務      北原 秀次氏 きたはら・ひでつぐ 岐阜県出身、62歳

取締役総料理長 大丸谷幸三氏 だいまるや・こうぞう 加賀市出身、63歳

経営企画室長  加東 雅彦氏 かとう・まさひこ 小松市出身、49歳

 ★よろづや観光(加賀市) 1956(昭和31)年設立。同市山代温泉で旅館「瑠璃光」「葉渡莉」、ギャラリーカフェ「べんがらや」を運営。2021年4月期の売上高は10億円。

無断転載・複製を禁じます