文化審議会は19日、上市町釈泉寺(しゃくせんじ)の「釈泉寺円筒分水槽」を国の登録有形文化財(建造物)に登録するよう末松信介文部科学大臣に答申した。円筒分水槽は、農業用水を正確に一定の割合で配分する施設。国登録有形文化財への登録は全国5件目、うち3件が富山県内の施設となっている。県内の国登録有形文化財は73カ所148件となる。
●文化審答申 全国5件目うち3件が県内
釈泉寺円筒分水槽は、1954(昭和29)年に上市川沿岸用水合口事業の一環で河川の扇頂部に建設された。鉄筋コンクリート造で直径9・3メートル。県内の円筒分水槽で唯一、分水槽の頂部に直径10・5メートルの円形管理橋が設けられている。
富山県教委や上市町教委によると、上市川を水源とする農業用水は戦後の時点で13施設あった。豪雨のたびに氾濫や取水口の流失に悩まされ、渇水時には水の利権争いが絶えず、地域では「水の争奪を巡って血の雨を降らす」などと表現される問題を抱えていた。
こうした状況を受けて用水改良事業が行われ、円筒分水槽も整備された。農業用水を上市川両岸の幹線水路に「0・51対0・49」の高精度で分水し、安定した水供給で水不足を解消した。地域の水利システム近代化の歴史を物語る貴重な農業土木遺産となる。
施設は現在、上市川沿岸土地改良区が所有している。酒井春夫理事長は先人の苦労や水の大切さを物語る施設に光が当たると歓迎し「施設を大切に守りながら後世に引き継いでいきたい」と語った。
上市町の中川行孝町長は「町の誇る歴史文化遺産の価値が認められたことは非常に喜ばしい。土地改良区と連携し、適切な保存と活用に努めたい」とコメントした。
県教委によると、県内で現在も利用されている円筒分水槽は5施設で、赤祖父円筒分水槽(南砺市)と東山円筒分水槽(魚津市)が昨年4月に県内で初めて国登録有形文化財となった。
全国的に円筒分水槽は勾配の少ない地域に整備され、県内よりも関東の方が多い。ただ、県内では赤祖父円筒分水槽の文化財登録に向けた運動をきっかけに登録の動きが広がった。
県内残り2施設のうち、国登録有形文化財の要件である建設から50年が経過しているのは、1954年建設で北陸電力所有の貝田新円筒分水槽(魚津市)となる。氷見市土地改良区所有の鞍川工区円筒分水槽は平成初期に建設された。