工事現場に置かれたタヌキ=金沢市片町1丁目

 金沢市片町1丁目の工事現場に、2体のタヌキの信楽焼が置かれているのを見つけた。日焼けした作業員が行き交う金沢の1等地には似つかわしくない。一体、なぜなのかと、工事業者に尋ねてみると、「流浪のタヌキ」が風雨や炎天下で汗を流す作業員の安全を見守る姿が見えてきた。(社会部・定木克樹)

 タヌキの置物は香林坊交差点近くのホテル建設予定地にある。高さ60センチと40センチほどで、歩道側を向いてたたずんでいる。

 「置き場がなくて、一時的にここに置いているんですよ」。工事を担当する西松建設(名古屋市)の岡田伊知郎所長(56)に理由を聞くと、予想外の答えが返ってきた。

  幼稚園児に人気

 聞けば、このタヌキは、社員が10年ほど前に富山での工事現場に安全祈願として置くために買ったもので、工事が終わった後は、その社員が当時の金沢営業所(森戸2丁目)に置いていったという。

 タヌキに「永住権」が与えられたのかと思いきや、営業所暮らしはそう長くは続かなかった。「その営業所は4年ほど前に金沢駅前に引っ越しました。その時タヌキは営業所に置かれず、駅西の工事事務所に移りました。でも、そこも2カ月前に引き払われて、それで今この現場にいるんです」と教えてくれた。

 それでもタヌキの10年ぶりの現場復帰は反響がいいようで、岡田所長は「近くの幼稚園の子が『タヌキ、タヌキ』とはしゃいでくれます」と得意げだ。

  思わぬ縁、寄贈へ

 「最初見た時はびっくりしましたよ。なんでこんなにタヌキに縁があるんだって思いました」。そう話すのは、ホテル工事の施主である陶器店「中村真美堂」(東山1丁目)の中村一夫社長(74)だ。

 「うちの祖父は1969(昭和44)年に金沢東署に高さ3メートルの大タヌキを寄贈したんです。私の子どもの頃のあだ名が『タヌキ』だったくらいですから、タヌキと縁のある人生なんでしょうね」と笑う。大タヌキは今も金沢東署の前に立っており、交通安全祈願の象徴となっている。

 「そんな昔話を聞いて、こちらから真美堂に寄贈を提案して24日に贈ることになりました」と西松建設の岡田所長。「ずっと転々としていたタヌキなので、引き取ってもらえてありがたいです。ずっと作業員の安全を見守ってくれたタヌキにも感謝です」と続けた。

 中村社長は「次は安全だけでなく商売繁盛にも力を貸してほしい」と話す。ちなみに、中村真美堂にタヌキ像が置かれるのは、大タヌキを寄贈して以来52年ぶりという。

 双方の縁をつなぎ、自らも新しい居場所を見つけたタヌキ像。編み笠(がさ)が災難を避け、大きな目で正しい判断ができるとされる縁起物である。警察担当の記者としては、新天地で金沢東署の大タヌキとともに、東山の地から事故のない平和な町が続くように見守っていてほしいと願った。

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