弁当を作る谷内さん(右)と妻の幸さん=珠洲市正院町正院のすし店

  ●すぐに売り切れ

 「正院町のお寿司屋さんが頑張って作りました」。珠洲市野々江町のスーパー「大丸」で午前11時過ぎ、こう記されたPOPが掲げられた陳列棚にパック詰めのちらしずしが並べられた。「待ってました」とばかりに買い物客が手を伸ばし、20分もたたずに品切れの札が置かれた。

 作っているのは正院町正院で「能登半島かつら寿し」を営む谷内(やち)穣さん(53)だ。妻の幸さん(47)と軽口をたたき合いながら、日替わりで2、3種類の弁当を作っている。

 「今日の定置はイワシばっかり。どんな料理にすりゃいいんや」。その口ぶりに困惑の色はなく、包丁を持てる喜びがにじむ。

 地震直後、すし店の様子を見に行った。昨年12月に耐震工事を終えたばかりで、それほど被害はなかったが、断水していた。

 「店を開いても来る人がおらん」と気をもんでいた1月23日、大丸に出向くと宇出津港で揚がったブリが目に入った。早速ブリを購入し、店に戻ってにぎりずしを15パック作り、大丸で1300円で売ったところ、数分で売り切れた。

 「珠洲の人にとって地元の魚を食べるのは日常。食べたがっている人はたくさんおる」。そう考えた谷内さんは蛸島漁港で漁師から直接魚を分けてもらい、弁当作りを始めた。

 数種類の切り身が載ったちらしずしや、具材たっぷりの太巻きのほか、おにぎりにフクラギの刺し身とカワハギの肝あえが添えられた「豪華版」も作った。

  ●再開めど立たず

 17年前に父から受け継いだ店は創業約50年。営業再開の見通しは立っていない。多くが避難している常連客もどれだけ戻ってくるのか分からない。それでも「食べたい人がおる限り、魚を出し続けんなん。それがうちの役目や」。春に旬を迎えるイサザやサヨリをどう調理しようか、今から思案している。

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