全壊した自宅の前で、見つかった思い出の品を見つめる塩井さん=6日午後5時、珠洲市正院町小路

がれきの中から見つかった将棋の駒

塩井さんの盤と駒が使われた昨年2月の棋王戦第2局=北國新聞会館

  ●24日、金沢で棋王戦第2局

 未曽有の大地震にも無傷で残った駒が金沢での頂上決戦に届けられる。24日に指される将棋の第49期棋王戦5番勝負第2局(北國新聞社主催)。初防衛を目指す藤井聡太八冠と伊藤匠七段が対峙するタイトル戦に、今年も珠洲市の団体職員塩井一仁さん(63)が所有する盤と駒が用意される。能登半島地震で塩井さんの自宅は全壊、妻はがれきの下敷きになり帰らぬ人となった。傷ついた将棋盤は修復して間に合わせるという塩井さんは「妻も毎年棋王戦を楽しみ、盤と駒が使われることを喜んでいた。被災地が元気になるような熱戦が見たい」と期待する。

 元日、塩井さんは珠洲市正院町小路の自宅で妻紀美子さん(64)とリビングにいた時、激しい揺れに襲われた。「天井にあったはずの梁(はり)が目の前に落ちてきた。2階が1階になった」と当時を振り返ると今も声を震わせる。

 吹き抜けの下にいた塩井さんは無事だったが、紀美子さんはがれきの下敷きになった。大声で呼んでも返事はなく、3日後、紀美子さんの遺体が見つかった。

 生粋の将棋愛好家である塩井さん。親類のつながりで、15年前から棋王戦の金沢対局で所有する盤と駒が使われている。

 五つの将棋盤と70組前後の駒もがれきの下に埋もれた。「しばらく将棋のことなんて、考えられなかった」という。1月21日、金沢市内で妻の火葬を終え、珠洲に戻ると、がれきの隙間に見慣れた箱がのぞいていた。「駒の箱だ」。がれきをどけ、将棋盤二つと駒4組をどうにか取り出した。盤は傷ついていたが、駒は包装材によって雨や雪の侵入が防がれ、奇跡的に無傷だった。

 2月6日、自宅のがれきの撤去が行われると、そのほかの盤や駒、中学生だった長男智仁さん(23)と羽生善治九段のツーショット写真、昨年2月の棋王戦で藤井八冠(当時五冠)と渡辺明九段(当時棋王)がしたためたサインも見つかった。「駒だけでもきれいな状態で残ってくれて、涙が出そうになった。思い出の品には勇気をもらえた。見つけられて本当にうれしい」と目を細める。

 金沢決戦が迫り、「今年は華やかな場に出るのはやめておこうか」と思い悩んだが、脳裏に浮かんだのは、将棋に熱中する塩井さんを応援してくれた紀美子さんの顔だった。「きっと妻も棋王戦を楽しみにしている」。

 棋王戦は第1局が異例の持将棋(引き分け)となり、金沢で第2局を迎える。塩井さんは「石川の将棋愛好家にとって金沢の棋王戦は一大イベント。私の駒と盤が被災地の人々に希望を与えるような対局の舞台になってほしい」と願っている。

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