カキ保管用の納屋作りに励む松村さん=穴水町中居南

 養殖カキの産地として知られる穴水町の中居湾。そのほとりにある作業場の地面は割れ、海水をくみ上げるポンプも壊れた。養殖46年の松村政揮さん(76)は廃業も覚悟したが、海中のカキを見て希望が湧いた。「きれいに育っとる。これは捨てるわけにいかん」。一気に心が奮い立った。

 1月1日、妻と長女、孫、ひ孫の6人で自宅にいて、にぎやかな正月を迎えていたところ、大きな揺れが襲った。自宅は中居湾から約100メートルの距離で、津波が押し寄せれば命が危ない。揺れが収まると、高台へ走った。

  ●「再起不能かも」

 カキの作業場を見に行ったのは地震発生から3日後。護岸は至る所が崩れ落ちていた。「とても出荷できる状況じゃない。再起不能かもしれん」。海の恵みに生かされてきたが、ここが潮時か。そう思うと、力が抜けた。

 やるせない思いを抱えながら、手塩に掛けたカキの元へ向かった。カキ棚にはたくさんのカキがついていた。幸い船も無事だった。

 地震から1カ月を迎えた今月1日。カキのむき身を保管する冷凍庫を置くための納屋を一人で作り始めた。材料の木材は隣人から譲ってもらい、作業場のひび割れは知り合いが修復してくれるという。周囲の温かい支えが再起を後押しする。

  ●「赤紙」でも自宅に

 中居に住む住民の多くは町外へ避難した。松村さんの自宅は応急危険度判定で「立ち入り危険」を示す赤紙が貼られた。また地震が来ればどうなるのか、という不安もないわけではないが、今も自宅で過ごす。

 「50年近くやってきて、おいそれとやめられん。地震なんかに負けとられんわい。ようやく、殻付きカキの出荷もできそうや」。笑みを浮かべてそう言うと、電動工具のスイッチを入れ納屋作りを急いだ。

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