今日の社説

2019/11/22 00:44

国立工芸館内覧会 明治と令和融合の建築美

 来年7月のオープンに向けて金沢市の本多の森で整備が進められている東京国立近代美術館工芸館の内装は、外観と同じく白色を基調に統一され、清新な雰囲気を漂わせている。内覧会で見た第一印象である。

 進取の気風にあふれた明治建築の美が現代工法の技で令和の世によみがえった。この凝った舞台空間に近現代工芸の逸品がそろうことになる。「美の殿堂」移転プロジェクトはいよいよ最終段階に入り、開館機運をさらに盛り上げていきたい。

 並列した建築物のうち、向かって左側に位置する旧陸軍第九師団司令部庁舎が作品展示用に使われる。東京にある現在の工芸館より展示室が1つ増え3区画となり、面積も1割アップする。書庫を含めた図書スペースも倍増するほか、図録や関連グッズを販売するショップスペースが新設されるのが特徴だ。2階には金沢市出身の漆芸家松田権六氏(文化勲章受章者、人間国宝)の自宅工房が移築されるほか、休憩室を整備し、工芸館所蔵のデザイン性に優れたいすが配置される。

 右隣の金沢偕行社は1階が管理事務室として使われ、2階には講演会などに使う多目的スペースが設けられる。

 ケヤキ造りの重厚な階段、漆喰のレリーフを移築した天井、アカンサスの葉をあしらった柱頭飾りなど、いずれも明治の洋風建築に特徴的な意匠をそのまま用いたり復元したりしており、軍都金沢を発展させた近代の「和魂洋才」の息吹を感じさせる。

 元々が軍部の施設であり、建物は師団長室、参謀室、各将校室や事務室などに区切られた構造となっていたことから、美術品の展示や鑑賞、そのための動線については難点も見られるが、それらを差し引いても、郷土の建築遺産に命を吹き込み、美術館として活用した移築整備は多くの賛同を得られるのでないか。

 隣接して県立美術館、県立歴史博物館が並ぶ壮観な眺めは県都の新たな文化ゾーンとして期待が高まる。23日から希望者を募った一般の見学ツアーが始まる。1200人の意見も参考にして開館準備を進めてもらいたい。

香港高裁の判決 名ばかりの司法権独立

 香港政府がデモ隊取り締まりのために施行した「覆面禁止法」について、香港の高等法院(高裁)が、香港基本法に違反しているとの判断を示した。基本法は憲法に相当する法律であり、香港司法当局の健全性、良識を示す判決と言える。

 香港警察は「違憲判決」を受けて覆面禁止法の適用をとりあえず停止したが、中国は「全国人民代表大会(全人代)常務委員会の権威と香港行政長官の統治権に公然と挑戦するものだ」と厳しく批判しており、香港警察はデモ隊制圧の強硬姿勢を緩めていない。

 香港基本法は行政管理権、立法権、司法権の独立や市民の言論・報道、集会、デモンストレーションの自由、さらに大学の自主性などを保障している。しかし、香港の高度な自治をうたう一方で、中国の直接支配を可能にする条文も盛り込んでいる。典型例は「基本法の解釈権は全人代常務委員会に属する」との規定で、中国当局はこれを盾に、香港高等法院の判決を認めていない。

 デモ隊がマスクや覆面で顔を隠すことを禁じる規則は、行政長官の判断で超法規的な措置を発動できる「緊急状況規則条例」に基づいて施行された。しかし、高等法院は、市民の基本的権利を合理的な必要性を超えて制限しており、基本法違反と認定した。

 極めてまっとうな判決であろうが、基本法の解釈権が全人代常務委にあるとなれば、司法の最終判断は中国共産党指導部の考え次第ということになる。覆面禁止法をめぐる訴訟は、香港の司法権独立が名ばかりの実態を図らずも浮かび上がらせたといえる。

 普通選挙などを求める抗議活動を「暴徒の動乱」とみなして鎮圧する中国に対し、米議会は、中国が香港の「一国二制度」を守っているかどうか毎年検証することを米政府に求める「香港人権・民主主義法案」を可決した。トランプ大統領は対中貿易協議の進展具合をみて、法案に署名するかどうか判断するとみられているが、人権・民主という譲れぬ価値観を取引カードに利用すること自体、国際的な批判を浴びかねない。