今日の社説

2019/11/17 00:39

国立工芸館外観 「美の殿堂」に新時代の息吹

 金沢市の本多の森で来年7月の開館を目指して整備中の東京国立近代美術館工芸館が、覆っていた工事用シートを取り払い、姿を現した。建物として利用した旧陸軍第九師団司令部庁舎と金沢偕行社がリニューアルして並ぶ威容は、白亜の瀟洒な壁面が紅葉した本多の森に映え、「美の殿堂」にふさわしい風格を醸している。

 いずれも明治期の洋風建築だが、レトロな趣よりも、新しい文化拠点となる清新な息吹を広げ、令和の時代をひらく期待を感じさせる。外観の全容が明らかになったことで、オープンに向けて機運を一層高めていきたい。

 建物に使われた第九師団司令部庁舎は1898(明治31)年、金沢偕行社は1909年の建設で、ともに97年に国の登録有形文化財に指定された。移築調査で両施設の外壁や窓枠の色が明治期の建設当時と違うことが判明し、元に戻すことになった。第九師団司令部庁舎はクリーム色だった外壁を白色に、薄桃色の窓枠や柱は焦げ茶色とし、金沢偕行社は灰色だった窓枠と柱を緑色に塗り直した。

 建設時の色に復元した二つの建物はそろいの白壁で統一感を広げ、壮麗さを際立たせている。焦げ茶色と緑色の窓枠もそれぞれ外観を凛々しく引き締め、西欧文化を果敢に取り入れ近代国家建設に邁進した明治の気風を印象づける。建築保存の基本に立ち、原色に戻して進めた移築は多くの支持を得られるだろう。

 国立工芸館は金沢出身の漆芸家松田権六氏(文化勲章受章者、人間国宝)をはじめ近現代工芸の逸品を展示する。その舞台装置として近代をけん引した軍都金沢の建築遺産を活用した移築は日本海側初となる国立美術館の存在感を高めることになろう。周囲に県立美術館や県立歴史博物館、県伝統産業工芸館が建ち、明治から昭和の歴史的建造物がそろう文化ゾーンとして整備される点も大きい。

 23日からの見学ツアーで募集枠1千人に応募が5千人を超えた。まだ展示などが整っていない中で、これほど関心を集める期待をしっかり受け止めて準備を進めてほしい。第2、3弾のツアーも検討してしかるべきだろう。

香港の抗議活動 強権支配を強める中国

 香港政府当局が、若者らの抗議活動に対して強硬姿勢を強めている。警官がデモ参加者への発砲をちゅうちょしなくなったのは、香港の強権支配を強化する中国共産党指導部の意向の表れということができる。

 習近平国家主席と香港政策を担当する韓正副首相が先ごろ、香港の林鄭月娥行政長官と相次いで会談し、「香港の暴力活動の制止と秩序の回復が最重要任務である」と、若者らの抗議活動に厳しく対応するよう求めた。

 香港の世論調査機関によると、林鄭長官の最近の支持率は約11%に低下し、更迭説も取りざたされていた。しかし、習氏は「長官の仕事を完全に信頼している」と明確に支持を表明した。林鄭氏の行政能力にお墨付きを与えたというより、香港の管理強化と秩序回復を厳命した形である。

 香港問題で習氏が表に出てきたのは、党の重要会議である第19期中央委員会第4回総会(4中総会)の終了を見計らってのことでもあろう。習指導部は4中総会で「党中央の権威と集中的な統一指導」の強化を打ち出し、香港に関しては▽国家の安全を守る法制度の確立▽行政長官の任命制度改善などの方針を示した。

 先に制定した「覆面禁止法」のように法治の体裁を整えながら、抗議活動を徹底的に抑え込む狙いであろう。一党独裁の統治体制に穴が開きかねないという危機感の裏返しとみることもできる。行政長官の任命制度改善は、中国にとって都合のよい改革であり、一段と非民主的になる恐れがある。そうなれば、民主派の抵抗がさらに激化するのは必至である。

 抗議活動は、端緒となった逃亡犯条例改正案が撤回された後も続いており、警察当局の取り締まり強化で過激さを増す悪循環に陥っている。抗議活動は、普通選挙の実現や独立委員会による警察の暴力調査などを目的にしているが、運動の後押しとなるのは、香港の自由・民主化を支持し、中国の弾圧政策を批判する内外の世論である。デモ隊の行き過ぎた破壊活動で国際社会の支持を失うことがあってはなるまい。