
頭部と胴体が切り離された浄行菩薩=金沢市野町1丁目の妙立寺
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忍者寺の通称で知られる金沢市野町一丁目の妙立寺は、年間十万人以上が足を運ぶ石川
県内有数の観光名所だ。訪れる人の宗派はもちろん、年齢も国籍も千差万別。これだけ不
特定多数の人がいると、困った観光客も少なくないらしい。「モンスター観光客って言う
んかねえ」。住職夫妻の嘆きが聞こえてきた。(荒木雄輔)
張田珠潮(じゅちょう)住職が、一体の仏像を手にした。浄行(じょうぎょう)菩薩(
ぼさつ)といわれるその石像をよく見ると、頭と胴体が切り離されている。約二年前、お
堂で遊んでいた外国人の子供が、倒して壊してしまったそうだ。十歳ぐらいの子供だから
、仕方がないのかもしれない。ただ、へらへらしながら父親が口にした言葉は、「ノープ
ロブレム(問題ない)」だった。
大切な菩薩像を壊しておいて、「問題ない」わけがない。張田住職は「情けないばかり
ですわ」と、あきらめ顔である。
外国人だけではない。今年四月に車でやってきた三十代男性は駐車場の塀を壊し、「験
が悪い」と、本尊に手も合わせず帰って行った。むしろ、罰当たりな気がするが…。
六十代とみられる女性が「八百円も拝観料を取るのに、食事も飲み物もつかないの?」
と真顔で聞いてきたこともあれば、案内が半分ほど終わった時点で「やっぱり帰るから拝
観料を返して」と言い放った子連れの母親もいたそうだ。聞いているうちに、開いた口が
ふさがらなくなってきた。
昔はこんな珍妙な観光客はいなかったという。張田住職の妻和子さんによると、人が増
え始めたのは、一九八〇(昭和五十五)年にテレビアニメのサザエさんで一家が金沢を訪
れ、カツオが忍者寺を探検してからだという。ただし、子供たちはいたずらをして回って
いたが、大人に悩まされることなどなかったそうだ。
加賀藩が祈願所として建立した忍者寺は外敵の攻撃をかわすため、さまざまな工夫が凝
らされている。幕府の決まり通り、外から見ると二階建てだが、中に入ると階段が二十九
カ所もあり、七層四階建ての構造となっている。しかし、こんなモンスターたちの攻撃が
あるとは、加賀藩も思いもよらなかっただろう。
張田住職が、もう一度、壊れた菩薩像に目をやった。この菩薩像は、さすると自分の病
や傷が癒えると伝えられており、顔を見ると、ほとんどのっぺらぼうになっている。永く
あがめられてきた証しである。「もしかしたら、誰かが首がとれそうな大事故を免れたの
かもしれんね」。そうでも思わないと救われない。菩薩像からも、嘆きが聞こえた気がし
た。
◆妙立寺(忍者寺) 一六四三(寛永二十)年創立。日蓮宗に属し、正久山と号する。開
祖は立像寺初代日樹の弟子一樹院日通。建物は二階建てであるが、一部三、四階になって
いるなど、本堂や庫裏(くり)にはさまざまなカラクリが施され、忍者寺として観光名所
となっている。