きょうのコラム『時鐘』

2018/02/26 00:33

 梅(うめ)の花(はな)を見(み)つけて、足(あし)を止(と)めた。寒咲(かんざ)きの冬(ふゆ)の梅かもしれないが、勝手(かって)に早咲(はやざ)きの花(はな)と思(おも)い込(こ)んで、うれしくなった。道(みち)の脇(わき)や空(あ)き地(ち)には、まだ雪(ゆき)が残(のこ)る

所用(しょよう)で北陸線(ほくりくせん)に乗(の)った。北陸トンネルを抜(ぬ)けて琵琶湖(びわこ)が見(み)え出(だ)すと、途端(とたん)に雪は減(へ)る。「一里一尺(いちりいっしゃく)」という言葉(ことば)を教(おそ)わった。里(さと)から山(やま)に一里進(すす)むと、雪は一尺深(ふか)くなる。北(きた)から南(みなみ)へたどる道も、マイナス「一里一尺」を実感(じっかん)し、雪国(ゆきぐに)の労(ろう)苦(く)を思った

雪は日(ひ)ごとに解(と)ける。「一日一(いちにちいっ)寸(すん)」どころか、穏(おだ)やかな日差(ひざ)しが急(いそ)ぎ足(あし)で雪の山を崩(くず)し、春(はる)の土(つち)が顔(かお)を出(だ)す。あれほど憎(にく)かった雪の姿(すがた)を、いまは名残(なごり)を惜(お)しむように眺(なが)める。春の気配(けはい)は、心(こころ)に余裕(よゆう)をもたらす

「梅一輪(いちりん)一輪ほどの暖(あたた)かさ」という句(く)を、学(がっ)校(こう)で習(なら)った。「一輪のぬくもり」の意味(いみ)が子(こ)供心(どもごころ)に分(わ)かるはずもなかったが、言葉の響(ひび)きが良(よ)くて覚(おぼ)えた。その一輪ほどの暖かさが増(ま)してくる時節(じせつ)になる

が、そうは問屋(とんや)が卸(おろ)すまい。北陸の空(そら)は手(て)ごわい。ぬくもりを吹(ふ)き飛(と)ばす寒(さむ)さが、ぶり返(かえ)すに決(き)まっている。梅が咲いても油断(ゆだん)はできぬ。雪国の厳(きび)しい掟(おきて)を、ことしは嫌(いや)というほど学(まな)んだ。