きょうのコラム『時鐘』

2017/01/20 01:08

 「地酒(じざけ)」とは、ただ言(い)わない。地元(じもと)の歴史(れきし)とともに生(い)きて来(き)たから「地酒」と呼(よ)ばれるのである

先日(せんじつ)、糸魚川(いといがわ)の大火(たいか)で被災(ひさい)した「加賀(かが)の井酒造(いしゅぞう)」の焼(や)け跡(あと)に立(た)ってそう感(かん)じた。焼失(しょうしつ)したはずの前田家(まえだけ)ゆかりの工芸品(こうげいひん)も無事(ぶじ)だった。火炎(かえん)迫(せま)る中(なか)を命(いのち)がけで持(も)ち出(だ)した人(ひと)がいる。自(みずか)らの歴史を金庫(きんこ)よりも大事(だいじ)にした老舗(しにせ)の心意気(こころいき)だ

「加賀の井」は黒部市(くろべし)の蔵元(くらもと)の協力(きょうりょく)で酒造(さけづく)りを再開(さいかい)するという。米(こめ)どころの富山や石川にはたくさんの地酒メーカーがある。が、越後(えちご)の南(みなみ)にまで「北陸の地酒」の範囲(はんい)を広(ひろ)げて、ぜひ消費拡大(しょうひかくだい)にも協力したい

1年(ねん)を通(とお)した酒造り体験(たいけん)をしたことがある。春(はる)、医王山(いおうぜん)山麓(さんろく)で田植(たう)え。秋(あき)に稲刈(いねか)り。冬(ふゆ)、暗(くら)いうちから蔵元に行(い)って冷水(れいすい)でコメ洗(あら)い。これが一番(いちばん)つらかった。アルバイトでなく、こちらが金(かね)を払(はら)ってやらせてもらうのだから物好(ものず)きにもほどがあると家人(かじん)は冷(ひ)ややかだった

早春(そうしゅん)、新酒(しんしゅ)が届(とど)いた。うまい。自作(じさく)の酒は当然(とうぜん)うまい。ノドが喜(よろこ)んで波(なみ)うつのがわかった。地酒には土地(とち)の歴史と春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)がとけ込(と)んでいる。仕上(しあ)げるのは大寒(だいかん)の冷気(れいき)だ。これは実感(じっかん)である。