きょうのコラム『時鐘』

2016/09/25 01:46

 沖縄(おきなわ)の遺跡(いせき)から約(やく)2万(まん)3千年前(ぜんねんまえ)、旧石器時代(きゅうせっきじだい)の貝殻製(かいがらせい)「釣(つ)り針(ばり)」が見(み)つかった。本当(ほんとう)か?と疑(うたが)ったほどである

どんなエサを付(つ)けたのだろう。釣り糸(いと)はどうした。近(ちか)くに首飾(くびかざ)りようのものが発見(はっけん)されて糸でつないだ装飾品(そうしょくひん)だったと想像(そうぞう)できたので当時(とうじ)から糸はあったという。だが、そんな大昔(おおむかし)に魚(さかな)を釣る細(ほそ)く強(つよ)い糸が作(つく)れたことに驚(おどろ)く

富山市(とやまし)の「小竹貝塚(おだけかいづか)」から縄文期(じょうもんき)の人骨(じんこつ)90体以上(たいいじょう)が発見(はっけん)されたことがある。6千年前の人骨が大量(たいりょう)に残(のこ)ったのは貝塚から染(し)みだした石灰質(せっかいしつ)が土(つち)をアルカリ性(せい)にしたからだという。酸性(さんせい)の土ではまず残(のこ)らない。沖縄の遺跡も石灰質の土壌(どじょう)だった

富山の縄文人遺骨(じょうもんじんいこつ)と沖縄の釣り針は同(おな)じ原理(げんり)で残った。古代人(こだいじん)が「貝殻の力(ちから)」を知(し)っていたわけはない。が、後(のち)に貝殻は貨幣(かへい)にまで使(つか)われている。土器(どき)や金属(きんぞく)を使いこなす以前(いぜん)に人間(にんげん)と貝は仲良(なかよ)しだった。不思議(ふしぎ)な関係(かんけい)である

新発見(しんはっけん)の釣り針は神々(こうごう)しいほどに美(うつく)しかった。貝殻だからこそできる曲線(きょくせん)である。食生活(しょくせいかつ)の始(はじ)まりを知る遺物(いぶつ)というが、人間の美意識(びいしき)は貝に育(そだ)てられたと「海(うみ)のロマン」を感(かん)じたほどの発見だった。