三歳の時に病気で聴力を失った金沢市の会社員大窪康之さん(36)が来月、南極点に
立つ夢を実現するため出発する。昨年八月には、同じ障害のある友人とともに、ろう者と
しては世界で初めて北極点に到達した大窪さん。世界ろう連盟によると、南極点に立つこ
とができれば、ろう者の世界最年少記録になるという。「障害があっても何にでも挑戦す
る姿を子どもたちに示したい」との思いを胸に、”地球の極点制覇”に挑む。
大窪さんは県立ろう学校の小学部時代に読んだ野口英世やベートーベン、ヘレン・ケラ
ーらの伝記から、常に前向きに生きる姿を学んだという。幼いころから夢見た青年海外協
力隊への参加は実現しなかったが、二十代のころから現在までに世界二十六カ国を旅行し
、耳が不自由でも心で通じ合えることを知った。
手話の普及活動などで知り合った塩野谷富彦さん=千葉県=が一九九九(平成十一)年
、当時、三十九歳で、ろう者では世界で初めて南極点に立った。これに刺激を受け、二〇
〇五年八月には、塩野谷さんと二人で観光ツアーを利用して北極点に至った。
途中、船内で行われた北極に関する講義が理解できず苦労したこともあった。しかし、
北極圏の自然の雄大さに心を打たれたという大窪さんは「十年間の貯金を使っただけの価
値はあった」と話す。
さらに、大窪さんは、今度は単身での南極行きを目指して、今春から準備を進めてきた
。三カ月がかりで聴覚障害者を受け入れてくれる英国の旅行代理店を探し当てた。
ツアーは南米のチリから出発し、航空機で南極西側の中継地・パトリオットヒルズに向
かい、ここから航空機で極点付近にある米国のアムンゼン・スコット基地を目指す。極点
へは好天時に限り出発するため、天候によっては長期間待機する場合も考えられ、有給休
暇を含め十二月二十五日から一月十四日までの休暇を利用する大窪さんは「何とか晴れて
ほしい」と願う。
南極は十一月から二月までは夏季にあたるが、外気は氷点下二五―三五度前後が続く。
現在大窪さんは、自宅では暖房器具を一切使わず、窓を開けて生活するなど寒さに慣れる
訓練のほか、筆談用の英語の勉強や体力トレーニングに余念がない。
北極での体験を語るため全国各地で講演を行い、耳の不自由な子どもたちと接する機会
が多い大窪さんは「私の挑戦する姿を見て、未来を担う子どもたちを勇気付けることがで
きればうれしい」と意気込んでいる。